ソフトウェア・ファーストを読んだ

書籍情報

はじめに

 あの及川さんの書籍ということで発売後すぐに購入したのだが,しばらく積読してしまっていた. ソフトウェア開発に携わる者としてとても有意義な書籍で,しかも何年も繰り返し読みたい内容だった.

 4月に就職してから組織でソフトウェアを開発することになり,改めて読んでみたくなった. 企業でソフトウェアを開発する意義と組織作りの指針について,その道のエキスパートの考えを知りたくなったからだ. なぜソフトウェアなのか,ソフトウェアで何がしたいのか,そしてどのようにソフトウェアを創り上げるのか. 「ソフトウェア・ファースト」ではその名の通り,ソフトウェアを核としたビジネスの考え方を知ることができる.

 一人のソフトウェア開発者として,そして組織で開発する者として,ソフトウェア開発の考え方を身に着けたい.

読んだ感想

なるほど,と感じた点について列挙する.

ソフトウェア・ファースト

  • pp.34
  • IT活用を核としてビジネスを進めていく考え方
  • ソフトウェアは破壊力のある手段,しかし決して全てを解決するわけではない
  • ソフトウェア・ファーストで最も大事なことは,変化しないことへの理解
    • 価値観,社会問題,世界観,etc…
    • 本著では,直近の時代で起きた,ディジタル化による新しい価値の創出についても触れている

DXの本質はIT活用を「手の内化」すること

  • pp. 107
  • トヨタ社で使われている言葉「手の内化」を,筆者はソフトウェア・ビジネスにも適用している
    • 筆者曰く"自社プロダクトの開発に重要な技術"を自分たちが主導権を握って企画・開発し,武器にする,ということ
  • コアな技術の専門家やノウハウを社内に蓄積することで,事業の武器を磨いていくということか

組織改革を並行して進める

  • pp. 186
  • 使われ続けるプロダクトを生み出すために,企画の立て方・育て方と同じくらい大事なのが,それを実行する人と組織です.
  • ソフトウェア技術を活かしていくために,ミッションを依代として人を集め育て,組織化することが大事
  • ミッションはプロダクトにとっての巨視的な方向性
    • その組織が社会をどうしたいのか?ということ
    • 長い目で見て変わりにくい,抽象的なもので構わない
  • ミッションを定める -> 人をミッションの方向に集める・育てる -> 組織文化を作り上げていく -> ミッションを達成するプロダクトを作る
    • ということだろうか?

おわりに

 「ソフトウェア・ファースト」は,ソフトウェア作りを生業とする人にとっての羅針盤となる書籍だと思う. ソフトウェアで社会を変えるための考え方,ソフトウェアの破壊力の活かし方,ソフトウェアを作る組織文化の育て方,それらを知るための足掛かりになるはずだ. これはソフトウェア開発に携わり始めた新人にとって心強いバイブルにもなるし,長くソフトウェア開発をしている人々にとっては方向転換を考える大きなきっかけにもなるだろう.

 しかし同時に「ソフトウェア・ファースト」は立場によって見え方が大きく変わるとも思える. それは本書がビジネスを考える立場,ソフトウェアそのものを考える立場,組織のあり方を考える立場のそれぞれが考えるべき事柄を述べているためである. これらの立場は及川さんが今までに歩んできた道だ.

 ソフトウェア・ファーストは,IT活用を核としてビジネスを進めていく考え方だ. 立場によっては優先したい考えが他の立場と競合することもあるだろう. それでも様々な立場の人々が同じミッションを掲げてソフトウェアを中心としてビジネスを推し進めていく. この姿がソフトウェア・ファーストのコミュニティなのではないか.

 私はしばらくソフトウェア開発に携わり続けるつもりだ. 年月が経って立場を変えるようなことがあっても,「ソフトウェア・ファースト」を読み返してコミュニティを考え続けていきたい.